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【題 名】厚い壁の魅力を引き出す
【誌 名】住宅建築別冊・22
【発 行】1986年2月15日
【編 集】建築思潮研究社
【発行所】建築資料研究社



論考    厚い壁の魅力を引き出す

設計事例  琴似の牧師館 | 手稲の三角屋根2 | 恵庭の家


厚い壁の魅力を引き出す

小室雅伸

 

5年前から,コンクリートブロック二重積みの住宅を作り始めた. 最初の住宅で,二重積みの性能というよりも威力を知ってしまって病みつきになっている.

暖かいことが,備えねばならない第一の基本性能である北海道の住宅は,ともすると,暖かさを求めること自体が目的になってしまっているようにも思える. 技術が,材料が豊富になった分だけ少しずつそれから自由になりたいものだが,逆に不自由になっているようでもある.そのあたり,厚い壁にそっくり委ねてしまって生活を身軽なものにしたところから,北国の住宅を考え始めたいと思っている.

 

二重積み

15cm厚のコンクリートブロック壁(耐力壁)に10cm厚の断熱材を貼り付け,空気層(浸透水を流す隙間でもある)を3cm空けて外装としての12 cm厚のブロックを積む. 合せて40cm厚の壁となる. 基礎も10cm厚の断熱材をフーチンまで差し込んで,幅40cmに打ち込む. 基礎断熱という方法である. 床下の土を厚い厚い断熱材であると同時に蓄熱層にしてしまうのである.二重積みに対する最大の関心事は,寒い北海道でのことだから暖かさを生み出す高性能な壁であることに期待があるが,同じくらいに壁の厚さに思いがある.

学生の頃,中世の寺院の平面図を歴史の教料書で初めて見て,何と厚い壁,太い柱なのかと呆れてしまった記憶がある. それが,住宅をいくつか作り始めた頃には,木造の壁の薄さが気になるようになっていた. 縮尺1/100あたりで平面や断面を整理してみると見えてくる.特に断面図がいけない. 小屋裏はできるだけ小さく,登り梁なりに天井が仕上がるような構成でも,壁(柱)よりずっと厚くなっているから,頭のボリュームが大きい. ヒョロヒョロの壁で頭でっかちを支えているようで,あぶなかっしく見えてしまう. 平面図では,たかだか10 cmちょっとの薄さで,零下十数度の世界と区切りをつけていることが見えてきて何とも頼りなげに思えた. ヨーロッパあたりの組積造のそれは,力強いバランスで描かれていて安心してながめることができた. 理屈ではなく,とにかく厚い壁が,北国の家にはふさわしいのだと思い始めていた. 吹雪の音など決して侵入して来ないような厚くて固い壁でカッチリと,だけど優しく囲い込むことがいい,と. 厚さ40 cmの壁にブロックを割り付けながら,まずは図面で満足させてもらった.

 

組積造と木造で

石,日干しレンガなど,その地の材料を積み上げて,木造で屋根をかけてしまうのが民家の一つの造り方だから,とこだわっているわけではないが,1階をブロックで,それから上は木造で造っている. 典型的な北海道の住宅であった「三角屋根」もそうであった.1階はブロック造に,矩勾配に近い大きな切妻屋根をもった住宅で,それが並ぶさまは,北海道らしい風景の一つをつくっていた. しかし.いつのまにか木造にとって変わられ,雪処理や奇抜さを狙ってのためか,鉄板葦きの気安さも手伝って,勝手気ままに屋根は踊り出してしまった. 初めてのブロック造住宅で試みた「三角屋根」の見直しというもう一つのテーマも,こんな理由からであった.

三角の2階に四角い部屋を作ることはやめて,妻側を南に向けていたのをルーフウィンドウを使って平側を南向きとし,結露で湿気の多いブロックは二重積みに,と作ったのが「手稲の三角屋根」であった.

この一層分だけブロックを積んであとは木造で,という構成が自分にとって取っ付き易いというだけではなく,最初の住宅での試みがブロックの住宅を,ふたたび一般化し得るのでは,と感じたことにもある. ここに紹介される三つの住宅は,それぞれ木造のかかわり方についていくつか試みている. 「恵庭の家」では,ブロック造にアドホック的に附加することを,「琴似の牧師館」では,2階の扱いを小屋裏的なものから発展させることを,「手稲の三角屋根II」では,屋根型の多様な展開への第一歩を,試みている.

ブロック造の住宅は北海道にとって馴染みの薄いものではない. むしろ,身近なものであっただけに,いくつかの先入観が根強く刻まれている. 「湿気がひどくてね」と,「間取りが不自由でね」に答える言葉を少しずつ見つけていくことも必要だと思っている. いろいろなアプローチで,ブロック造の,組積造の厚い壁の魅力を引き出す作業がたくさんある.

 

 

琴似の牧師館

古くなった三角屋根の木造住宅の建替えだから,この敷地で何度も冬を過した牧師夫妻の生活体験が条件を固めていった. 昼でも電灯を点け放し,大きなストーブを昼夜焚き放しでも寒い冬を過してきたから,陽当りが良く暖かいことが何よりもの課題であった.東側も南側も隣家が近く,広くはない敷地であったから,コンクリートブロック二重積みにして2階に居間を,という考え方にまとまって総2階建に下屋が付いたコンパクトな住宅になった.この家は,コンクリートブロックを規準の高さいっぱいに積み上げて,あとは木造で背の立つ高さまで軒桁を持ち上げて屋根をかけてしまおうというのが基本的な考えである. だから,ファサードのプロポーションが少し変わって高めのブロック壁とその上の木造部分とのバランスが軽快になったように思う.

臥梁の高さは2階の床レベルを越えて,高さ90cmのコンクリ−ト打放しの腰壁となってぐるりと囲っているが,長辺を三分割する位置にも突き出している.この袖壁と中央に設けた階段の手摺壁が2階のフリー空間をゆるやかに分割して,それぞれの場に性格を与えている. 6mのスパンを架け渡した木製のフィンクトラスは,高い天井高を,ほど良いスケールに調節していると同時に,電球が取り付いたり,植物が下げられたりして,この空間を演出する重要な役目をしている. コ−ナーを固める火打土台や火打梁も窓辺のディスプレイ台に仕立てて,陽射しを楽しく受けとめることに参加している.1階に小さく区切る部屋を,2階にオープンな居間を,というプログラムにブロック造と木造の特性がうまくかみ合って,明快な構成とすることができた.

暖房は,低い所に熱源を,の原則通り,1階の玄関近くに設けた灯油ストーブでこの家をすみずみまで暖めている.総2階建による効率の良さに負うところが大きいが,安定した暖かさはブロックに支えられている. コンパクトにまとまったブロック造と木造の混成によるこの家は,北国の住宅の一つの型として,自分なりに位置付けている.

手稲の三角屋根2 →作品画像

望んでいた以上に大きな土地を買ってしまったから,その分だけ建物にかけられる費用が少なくなってしまった.その上,唯一の希望が,「倉庫のようなガラーンとした感じ」ということだったから,ローコスト住宅を余儀なくされた. 二重積みのブロック造に屋根をかけて,小屋裏的な2階建にするしかないと,とにかく1階に必要な最小限のスペースを確保することからプランニングが始まった. ガラーンとした感じ,を視線の抜けに託して,できるだけ長く,幅を細くまとめることにこだわった. それは,この家の近くにある最初の三角屋根での経験から,落雪のこと,高さのことを考えてのことであり,非対称の三角屋根になったのは,幅の狭さに対して内部空間の自由度を得るための方法である.1階で最小限,夫婦と赤ちゃん1人(当時)の住宅として成立するだけの機能は満たしたから,2階は余禄の空間ということで,1階に天井が必要な部分にだけ,2階の床ができてしまったことにした. 寝室が吹抜けになっている理由である.

インテリアは,ブロックと木と白く塗った天井だけで作られている. ブロックはムキ出しのまま,その配線もムキ出しのまま,造作材として使っている木は,カンナ掛けが一応されていることを幸いに2×4構法のスプルス材をそのまま手摺や階段に用いてしまった. 2階の床は,2×6材の外部デッキ用に加工された材料を,これだけはあらためてカンナ掛けをしたが,節ムキ出しで,打ちつけた. セントラルヒーティングやFF式のおかげで,壁際に目立たぬように控え目にされがちな暖房器は,石炭ストーブにして,広くはない食堂にデンとムキ出しに据えた. 少々,乱暴な取合せだが,北国の家である.

恵庭の家

庭造りを趣味にする施主は,広い土地を求めて,勤め先がある札幌から移り住むことにした. 畑地に作られたこの住宅地は,区画割りが大きく,まだ住宅の数もまばらだったから通りを歩いていると隙間が多すぎて,少し寒々しい感じがした. だから,2宅地分の間口15間のこの敷地には,通りに対してできるだけ長く壁が欲しいと思った.玄開・階段を中心に食堂・寝室,居間・おばあちゃん室を振り分け,ブロックの壁で区切りながら横一線に並列させ,さらにガレージを加えておよそ間口21 mのプランとした. ブロックの二重積みを試みた2回目の家であったから,意気込みもあって,ブロックが強くインテリアに現れるようにもしたかったからである. それらを,大きな敷地に見合う大きなスケールの片流れ屋根で覆って,ちょこんと突き出した階段と2階には,ブロックとは対比的な形態を与えて,単純な構成に刺激を与えている. 道路側では,さらに玄関の雪割り小屋根と,色彩が加わって正面性を強調し,複雑さを増しているが,これらは木造で行っている. また,平面的にも,窓廻りをブロック面から突き出したり,引き込んだりして,できる限り単純にしたプロッタのストラクチャーをそのままにして,細かな操作を木造で補完することを試みた住宅である.

ペチカも2回目の試みである. 自立させて居間の焦点に据えた図面を見たペチカ屋に,暖炉を付けてみないか,と誘惑されて施主共々のってしまった.レンガ積みの暖炉では,ここには重いと思ったから鉄板で細身に納めた.暖房装置としては優等生のペチカだけれども,暖めている様が見えないことの物足りなさを暖炉で補完してみた.暖めること,暖まることが,北国の生活の楽しみの一つでもあったことを思い出していた.


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