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【題 名】環境と共生する建築--学校・地区会館・幼稚園・障害者施設・病院・住宅--
【編著者】野沢正光
【発 行】1993年12月15日
【編集室】ライフフィールド研究所
【発行所】建築資料研究社


・北国に建つ外断熱工法の幼稚園_____page64
 まこまない明星幼稚園

・石壁にみる記憶と室内気候_______page122
 川沿の三角屋根


北国に建つ外断熱工法の幼稚園
まこまない明星幼稚園
(作品画像)

 東京オリンピックの年に建てられた旧園舎が老朽化して、建て替えられることになった。ここは真駒内団地の一角。郊外住宅団地のはしりだったこの街も、戸建住宅やアパートの建て替えが始まって装い新たな建物が目につくようになった。それでも新興住宅街のそれとはちがって風格と落ち着きのあるたたずまいを感じさせてくれるのは、豊かに育った樹木たちのお陰であるに違いない。
 この幼稚園の敷地も豊かな樹木に囲まれ、とりわけ北側は鬱蒼とした木立に覆われた遊歩道になっている。
 設計の始まりにいろいろなことが議論された中で、幼稚園からの要望の柱は、内も外も木を生かした空間を、ということであった。もちろん建材としての木と敷地を囲む樹木の両方を生かすことである。
 建物はできうるかぎり単純化したコンクリート構造にして躯体コストを低減し、木を使えるところは徹底的に適材適所で臨むことにした。高い居住性能と耐久性を求めて、外断熱工法・三重ガラス入り木製窓・床暖房を用いている。
 建物の外側は、1階部分に北欧パイン羽目板、2階部分は鋼メッキステンレス板で覆っている。木製建具も1階部分は塗装仕上げだが2階部分はアルミカバー付きにして、メンテナンスフリーにしている。遊歩道側にはナナカマドの実の色に塗られた避難用の滑り台が付いて、樹木の間にアクセントを付けることになった。
 南側には、木製のパーゴラを付けて園庭と建物との間に内と外の中間的な場所を設けて園児たちの遊び場の一つに加えた。西側には、ブックコーナーを半円形に突き出して表情をつくっている。簡素化されたつくりの建物に、ちょっとずつ付け加えられた物たちで周囲の環境と親密な関係を生み出そう、というのが狙いであった。
 内部は、白く塗られたコンクリートと木材の調和がテーマになっている。窓、ドア、靴箱、手摺、床、壁、天井など使えるところにはさまざまな種類の木材を使っている。遊戯室の天井は骨組みをそのまま露しているし、ブックコーナーの天井は薄い板をカゴのように編んで取り付けている。
 三重ガラス入りの窓だから、南側だけでなく北側も大きく開けて木々たちの四季折々の変化も、しんしんと降る雪も大画面でインテリアに取り込むことができている。
 
 木製窓(スウェーデン製・(株)ノルド)は2 階部分をアルミカバー付きにしているが、ディテールの考え方は同じ。コンクリート躯体にアングルで取り付け、水切り金物とコーキングで躯体との水密を確保する。現場発泡ウレタン厚50mmを吹き付けた後、木下地を組んで羽目板あるいは金属板の外層材を取り付けている。外装材と断熱材の間の通気層が二次防水を兼ねる。特に外装に木材を用いる場合、木材の反りや腐れ防止に役立つ。また、暑い地域では夏期の日射を和らげる効果も大いに期待できるであろう。


追記)
1993年春から敷地内の牧師館の改築計画を進めている。当初求められた規模は西側に立つ大きなクルミの木とイチョウの木を切ることになる。ほぼ計画が煮詰まりかけたところで規模縮小案が委員会から提案された。大木は園児たちの砂場に心地よい木陰を与えつづけてくれることになった。

(小室雅伸)

 


 

 北海道の寒さは何より建築物そのものにとって大敵でありつづけた。大地の凍結による建造物の凍上倒壊、氷結する雨水、雪によるすがもりやコンクリート建物の破壊、北海道の建築学はそれへの対応をテーマとする長い歴史である。断熱材の一般化とたぶんそれにサポートされるように始まる北海道独自の生活の価値の追求が、北海道のための室内気候を提示し始めたのは、ほんの数年前からのことである。
 コンクリートという蓄熱性能の高い材料、それによる躯体の外側のすべてを断熱材でくるみ、木材と金属板でそれをカバーするという手法は、そうした「北海道のための室内気候」を求めることにより必然的に選択された説得力のある表現である。
 「北海道の建築にかかわる、人々は東京を向かず、むしろヨーロッパに直接注目している」と聞かされたのは数年前のことであるが、この幼椎園をデザインした建築家が当然のようにここで用意する設備−トリプルガラスの木製建具、外断熱と空気層に守られるRC造の躯体は、北欧や北米のディテールがこの国に短期のうちに根付き、十分にこなれた手法になりつつあることを示している。
 「開く建築」であるか「閉じる建築」であるかを問えば、当然建築は開くことができるものでなければならない。しかし建築が開くことをその性能とすることだけが、そのテーマであるなら、これほどシンプルな話はあるまい。閉じたいときにいかに閉じるか、これが難しいもう一つの主題である。 

(野沢正光)

 


 

石壁にみる記憶と室内気候
川沿の三角屋根
(作品画像)

 札幌近郊で採れる軟石を使った建築は住宅をはじめ蔵や倉庫、サイロなどに見ることができる。小樽の倉庫群は大規模な例である。
 戦前戦後に建てられたこれらの建物が老朽化や土地利用のために解体され続けてきたことは愛着を持ちそれを惜しむ人々が少なかったばかりでなく、それを生かす発想、再生の扱術に対する専門家の関心不足も否めない。
 この住宅の施主はお父さんが戦後建てられた木造に軟石を積み上げた住宅に住んでいた。木造ゆえに構造体としては限界を感じていたし、少々狭いことも問題であった。しかし、軟石の壁には愛着と信頼感があったから何とかこの壁を残したまま新しい家をつくれないものか、と数年来いろいろな建築業者に相談してみたが、にべもなく捨て去って新築する提案ばかりであったとのことである。
 約6mX8mの大きさの住宅。2階は小屋裏的なつくりだからデッドスペースもあり狭かったが、これが丸々使えるならば広さは良いとのこと。また、1階は窓が小さく日当たりも悪いので2階に居間をもっていき、1階を個室にしたいとの要求は、構法を考えるうえで好都合でもあった。

 

●構法

 まず石壁だけを残して木造部分をそっくり取り除き、その内側に断熱材を吹き付けた。次にベタ基礎床をコンクリートでつくり、コンクリートブロックを積み上げ、スラブを石壁共々打って二重壁で1階部分を囲めた。2 階は、60°の角度の三角トラスを連ねてワンルーム空間をつくり、安価で耐久性の高い金属板ですっぽり覆うことにした。ラフな石壁と対比する質感を与え、数十年の時間を刻み込んだ石壁の迫力にバランスするボリュームを与えることが狙いであった。

 

●断熱

 1階は石壁に発泡ウレタンを50mm吹き付けた外断熱。厚くするに越したことはないが、外形が決められた中につくるから居住面積との兼ね合いで決めている。二重壁の外断熱のときには、内側の構造壁に断熱を施し、通気層を設けて外壁を設けるのであるが、この場合は初めに外壁があるのでこうなる。石壁を浸透する雨水の防水も発泡ウレタンは兼ねている。
 2階の木造部分は、2×4工法でつくってあるから、各部の材料の厚み分はグラスウールを詰め、さらに妻壁は50mm、屋根面は100mm のフォームポリエチレン板を張り付けた。トラス上部を露出させトップライトの光を入れるための断熱強化であり、大きな天井高の空間は十分な断熱を施さなければ開放感の心地よさと引き換えに、温度差の不快感と力任せの暖房設備を求められてしまう。

 

●設備

 高い性能を持たせた建築は大げさな設備は不要である。少々のことは高い断熱性能とコンクリートブロックの蓄熱性がカバーしてくれる。1階に設けたただ一つの石油ストーブでこの家の暖房はまかなわれている。
 これまでコンクリートブロックを使って二重壁の住宅をつくってきた。2階に木造をのせるやり方もいくつか試みてきた。この住宅はそれらの一つを見て依頼されることになったのであるが、これまでの経験が古いものの保存、再生に一役買うことになり貴重な体験をすることができた。外断熱工法の利点の一つは、構造体を断熱材と外装材(外壁)でくるんで保護し耐久性を高めることにあるが、ここでは外壁の保存になっているのである。
 元の家がつくられたときには、道路が東側にあったが、なぜかその後に西側に道路がつくり替えられてしまった。書斎の床が一段下がつているのはそこが玄関だったから。今の玄関は台所の窓であった所を拡張して設けた。 
 
 暖房は、玄関の左手にFF式ストーブを1台置き、それから配管して浴室の床暖房と、書斎にパネルヒーターを設けている。局所暖房で部屋を暖めるには、寒気の入り口に暖房機を置くのが鉄則である。

(小室雅伸)

 


 この住宅の姿の良さ、美しさはどうだ。この美しさ、姿の良さは何によるのか。その一つは室内気候のための配慮という根拠により、もう一つは記憶の保存という根拠によっている。過去この敷地にあった住宅の使用に耐える外皮は、新しい住宅にそのままその時間をつなぐ。住宅のシルエット、そして内部空間は明らかに過去のものではないが、この家には長い時間を連続する空気=気候がある。以前と全く異なるシルエットもむしろ、建築家の自信あふれる風景へのレスポンスであり、これ以上の案はない。条件を幅広く解くことによって現われる必然としての形態こそ、建築の本来の冒険であることをこの住宅はすがすがしく我々に教える。
 近年の北海道の住宅には時代と密接にリンクしたスタイルがある。そしてそのことは北海道の住宅がその時代の技術や知恵、つまり根拠によりその様相を変えつづけていることを示す。
 北海道の住宅の性能追求の実験は、北海道以外の住宅にも今や大きな影響を与えつつあるが、郊外に林立するそれら建売「住宅群」の風景は悲しいほど無残なものでもある。
 この住宅の持つ「外側の質」はそれらに対する大きな批評にもなっていると考えるし、指針にもなり得ると考えたい。

(野沢正光)


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