目地なしで仕上がる湿式外断熱工法の施工概要とその事例
湿式密着工法の1つ「StoTherm Classic(以下、シュトーサーモ)」(ドイツ・Sto社/国内販売代理:野原産業 03-3357-2402 )を、事例を交えて紹介する。
シュトーサーモは躯体下地に断熱材を接着し、その断熱材の保護・補強・美観のための仕上材を塗り重ねて完成させるもので「ドライビット」(サンクビット)など他社の密着工法と基本構成は同じである(表)。通気層工法に比べて単純な構成で、仕上がり厚さは断熱材厚さ+10数oで納まる。あまりの単純さに心もとない印象を受けるかもしれないが、重要なのは透湿理論に基づき屋内から外部に湿気を放出する専用材料の組み合わせを、責任施工でもたらす性能だという点である。
このような密着工法では、剥離事故が最も重要なポイントであるから、各構成材料の接着強度はもちろん、剥離の原因となる内部結露を発生させない材料の組み合わせでなければならない。従って安易な構成材料の仕様変更は命取りになるのである。
シュトーサーモの外断熱システム概要
EPS断熱材は発泡率によって性能が異なるが、ここで用いる仕様は約16s/m3で、熱伝導率0.039w/mk、サイズ50p X 1mである。サイズが少し小さいように思えたが、取扱いと施工精度を高める上で妥当な大きさのようだ。また、基礎断熱など地中に施工する部分ではXPS(押出し法発泡ポリスチレン)を使う。
断熱材の貼付は水平を確保し断熱材を受けるための専用部材スタータートラックを定規として取付けることから始めるのが標準である。躯体への接着は、基本は接着モルタルによる固定だが、不陸の大きい面には団子張りを用い、高層部などでは接着モルタルのほか、ヒートブリッジを考慮したプラスチック製の固定ジベルを併用する(写真1・写真2)。貼り上げた断熱材相互の微妙な目違いは大きな専用やすりを掛けて均すが、柔らかいEPSだから難なくできる作業である。このとき飛び散るスチレンの粉を吸い取るための専用掃除機まで工具にあるのがドイツらしい。
クラック防止・附着・衝撃強度に重要な補強メッシュは約8o角メッシュを標準に、コーナーや窓廻りの補強部分は約4o角コーナーメッシュを使い分ける。標準はロール巻だが窓廻りなど異種材料との取合い役物として接着シール付プラスチックライナーと一体になったウィンドウプロファイル、さらに養生フィルムを一体にしたのもある。
仕上げは、スタータートラックの部分以外は目地無しで仕上げることができる。また、仕上げのベースコート、トップコートはセメント質を含まない水性アクリル樹脂主体であるが、これがクラック防止と耐久性の重要な点である。ベースコートなどにセメント質を含むと、クラック発生の可能性が増すからである。メッシュを含めたこの部分の厚みは3〜4o程度の薄さである。トップコートは約800色で、黄色・オレンジ・赤・紫・青・緑・グレーの7系統によるカラーシステムになっている。
仕上がりのテクスチュアは混入する粒子サイズの選択で平滑仕上げからラフ仕上げまで可能。一般の外装タイルなどの貼付けについては重量や透湿性能の問題を研究中で、今のところできない。しかし、トップコートと同質材のレンガ調仕上げ材や古典建築風のモールディング部材は用意されている。
水密とエキスパンション
シュトーサーモのそのほかの特徴として、一切コーキング材を使わず、EPDM系フォームテープを水密性とエキスパンションに多用することも挙げられる。一般的なクラック防止の目地切りは必要としないが、たとえばアルミサッシなど異種部材と接する部分では膨張収縮の差でクラックを発生させたり隙間を生ずる。そこに用いるのがEPDM系フォームテープである。
事例に学ぶ納まり・施工のポイント
ここで紹介する事例は、シュトーサーモの国内初の施工である、小さな農家住宅である(写真3・写真5)。北海道・蘭越町、羊蹄山を望む広大な畑の中に建つこの住宅は奥行5m、桁行き21mの長方形で、北側の中央部に食品庫が突き出している。3mピッチのRC壁柱で躯体を構成し、カラマツ集成材の垂木屋根を掛けた上を折板屋根ですっぽり覆って緑化した。
RC壁体部分を100o厚のシュトーサーモで覆った。積雪寒冷地ながら暑い夏の農繁期には快適な涼しさをもたらしてほしい農家住宅の仕掛けとして、北側を地中に埋め、南は全面ガラスのパッシブソーラー・地熱利用建築だから最初の事例としてはいささか変則的なところが多い(図1)。
(1) 断熱材の貼り付け時のポイント
北側に向かって建物が土中に埋まっていくので下部はXPS、上部はEPSと使い分けて断熱材を貼り付ける(写真4)。断熱材の水平・垂直を調整して不陸を最小限にすることがこの段階でのポイントだ。ここでは基礎断熱で100oのXPSを既に打ち込んであるからそれを定規としてEPSを貼り付ける。しかし、その天端は欠損や不陸があるのでEPDM系フォームテープ(幅15oで、厚さ1.5oから約11oに膨らむ)を張り付けたうえで、断熱材を押し付けながら貼り込む。欠損部は専用の低発泡ウレタンフォームで埋める。
(2) 開口部廻りのディテールについて
どんな材料であれ外壁の一番の課題は雨仕舞、サッシ廻りの納めである。しかし、本事例では大きく軒を出した屋根が強力な一次防水であるから雨仕舞はまず問題ない。メインの21m連続する南側窓は奥行き2mの軒下空間にあるからここは雨仕舞とは無縁である。
実際、ドイツからやってきた職人と現場で時間を費やしたのは妻面の窓廻り板金水切りとの取合い部分であった。Stoのオリジナル水切り金物(かなりごつい)はあるが通常通り、板金で納めたかった(図2)。
また、この仕上げでは特に汚れに対する注意を払う必要があると思う。タイルや金属板とは異なる透湿性の素材であり、多雨多湿の気候条件とメンテナンスを嫌う日本的体質を考慮して色の選択も含めたディテールの工夫が必要だ。ちなみに同システムの標準ディテールでは水切りの出は30o以上確保せよ、となっている。
同システム採用時の留意点
この種の工法は欧米で40年近くの実績があり、外断熱の手法として定着している。通気層工法よりは込み入った形状にも対応しやすく、地球環境時代において外断熱工法へのハードルが下がることは好ましい。
留意すべき点は前述した窓廻りの納めである。筆者がこれまでやってきた通気層工法では窓廻りや外装仕上端部のオープンジョイントに苦労したが、今となっては外装材との一発取合いではなく一次防水、二次防水と段階的に防御を重ね合わせることが本筋の納めだと考える。しかし、同システムでは外装材との一発防水に逆戻りの感が個人的にはある。 本事例ではそのリスクを回避する形状の設計を進めたため検討を端折ったが、今後の展開には一工夫必要だと考えている。
(小室雅伸)
Copyright©2003北海道建築工房
All Right Reserved.
[ Back
]
|